「うちは小規模だから大丈夫」と思われがちですが、WordPressは自動化された無差別スキャンの対象であり、規模に関係なく被害は起こります。
まずはWordPressセキュリティの基本を押さえ、どんなサイトでも共有する「守るべきデータ」と「防御設計」を最短で整えるところから始めましょう。
小規模サイトでも攻撃対象になる理由
結論:規模は関係ありません。
攻撃の大半はボットが世界中のWordPressを機械的に探索・侵入試行するため、小規模サイトでも常に攻撃面に晒されています。収益規模よりも、「踏み台にできるか」「盗れる情報があるか」「改ざんで利益が出るか」が判断基準になります。
無差別攻撃の仕組み(ボットによる自動化)
攻撃者はスキャン用のボットで、既知の脆弱プラグインや管理画面 /wp-login.php
、XML-RPC を一斉に叩きます。
ユーザー名の推測、弱いパスワード総当たり、古いテーマ・プラグインの既知脆弱性の悪用、REST API の誤設定などを自動でつなげ、侵入口を見つけた瞬間にマルウェア設置やリダイレクト改ざんを行います。
この過程は完全自動で、人手の審査はほぼありません。つまり「小さい=見逃される」は成り立たないのです。
小規模でも価値があるデータとは?
小規模サイトでも、攻撃者にとっての価値は十分にあります。代表例は次のとおりです。
- 管理者アカウント:他サービスの使い回しがあれば横展開の足がかりになります。
- 会員・お問い合わせ情報:メールアドレスや氏名はスパムやフィッシングの素材として転売価値があります。
- サイトの“信頼”そのもの:あなたのドメイン/サーバーをスパム送信・フィッシング配信・SEOスパムの踏み台にできます。
- 検索トラフィック:改ざんでアフィリエイトや詐欺サイトに転送すれば、少流入でも恒常的な利益が生まれます。
- サーバー資源:不正マイニングやC2通信のノードとして悪用できます。
要するに、小規模でも「侵入しやすさ」と「使い道」が揃えば十分に“狙う価値がある”対象になります。
最低限実装すべき防御設計
まずは「侵入を難しくする」「被害を早く検知する」「復旧できる体制を作る」の3点を最低ラインで揃えること。
以下は小規模サイトでも今すぐ実装すべき具体策です。
ログイン防御(強固なパスワード・2段階認証)
管理者・編集者アカウントには推測されにくい長いパスワードを必須にしてください。パスワードマネージャーの導入を推奨します。
さらに、管理画面には二段階認証(2FA)を必ず有効化します。可能ならログイン試行回数の上限(ロックアウト)やIP別の制限を設定し、/wp-admin や /wp-login.php へのアクセスを不要な国から制限します。
バックアップと復旧体制
定期バックアップ(ファイル+データベース)を自動化し、別ホストやクラウドに保管します。
バックアップは復元手順を定期的に確認しておき、実際に復元できることを検証しておくことが重要です。バックアップの自動化や権限調整は WP-CLI で効率化できます。
アップデートとプラグイン管理
コア・テーマ・プラグインは最新の安定版へ。自動更新を採用するか、週次で確認する運用を決めてください。不要なプラグイン・テーマは削除し、評価が低い・メンテされていないプラグインは使わないこと。新規導入前に開発者と更新頻度をチェックします。
アクセス制御・ファイル権限の見直し
Webサーバーのファイル権限は最小権限に設定(例:ファイル644、ディレクトリ755、wp-config.phpは600や440等)し、公開フォルダに不要な書き込み権限を与えないでください。
管理画面やwp-config.php、uploadsフォルダの直接アクセス制御(.htaccess や nginx 設定)で不正アクセスを防ぎます。
セキュリティプラグインと監視
侵入検知・変更検出(ファイル改ざん検知)、ログイン試行のブロック、WAF(Web Application Firewall)接続などを行うセキュリティプラグインを導入します。
ログは外部に送って保管すると改ざんされた際に証跡が残ります。まずは基本の監視(ログ監視・異常通知)を設定しましょう。
最低限の運用ルール(実務で効く小さな約束事)
- 管理者アカウントは最小限にし、共用アカウントを作らない。
- 同じパスワードを複数サービスで使い回さない。
- 重要操作(プラグイン追加・ユーザー作成)はログに残し、定期レビューする。
- 定期的に管理画面のログイン履歴を確認し、不審なIP/時間帯があれば即対応する。
これらを「すぐに実行できる順」に並べると、
(1)パスワードと2FA設定
(2)自動バックアップの有効化と復元確認
(3)コア/プラグインの更新ルール策定
(4)ファイル権限とアクセス制御の確認
(5)基本的な監視・通知設定
の順がおすすめです。
まとめと次のステップ
まずはWordPressセキュリティの全体像を理解し、小規模サイトでも攻撃対象になる前提で防御を整えることが大切です。守るべきデータを把握し、パスワード強化やバックアップなど最低限の設計を整えるだけでもリスクは大きく減らせます。
次のステップとしては、WAF(Web Application Firewall)の導入や常時監視サービスを組み合わせることで、より高度なセキュリティ体制へ移行できます。さらに、WP-CLIを活用したバックアップを効率化する方法や、WordPressの安全性を診断できるMozCheckを活用すると、日々の運用負担を軽減しつつ安心感を高められます。
小さなサイトでも油断は禁物です。診断ツールやセキュリティガイドを活用して、安全なWordPress運営を始めましょう。
参照リンク
信頼性の高い公式・公的中心、実務に直結する順で参照リンクをおススメします。
- WordPress の安全性を高める(公式ハードニング):公式の基本対策と設定。小規模サイトでもまずここから。 (WordPress.org 日本語)
- Advanced Administration Handbook|Security/Hardening:英語だが最新の運用・設計面の指針。 (WordPress Developer Resources)
- WordPress Security(公式セキュリティチーム):脅威モデルと公式の姿勢・体制。 (WordPress.org)
- IPA「安全なウェブサイトの作り方」:日本の実務者向けに脆弱性と対策を体系化。 (IPA)
- OWASP Top 10(日本語):Webアプリの主要リスク。WordPress運用でも発想の土台に。 (OWASP)
- OWASP Japan(チャプター):国内コミュニティの成果物・資料。 (OWASP)
- JPCERT/CC「インシデント対応とは」:被害時の基本姿勢と連絡先。小規模でも対応依頼可。 (JPCERT)
- JPCERT/CC「インシデント対応依頼」フォーム:緊急時の届け出窓口。 (JPCERT)
- JPCERT/CC「インシデントハンドリングマニュアル」(PDF):初動対応〜復旧の実務手順。 (JPCERT)
- NISC(国家サイバー統括室):日本政府のサイバーセキュリティ総合窓口。政策・注意喚起。 (内閣官房)
- JVN iPedia(脆弱性対策情報DB):プラグイン脆弱性などの最新情報検索に。運用チェックに活用。 (jvndb.jvn.jp)
- JVN iPedia 登録状況レポート(2025年Q2):四半期ごとの動向把握に。 (IPA)
※実務Tips系の民間記事は変動が早いため、上記の「公式・公的・標準」を基盤に、必要に応じて補助的に参照してください。
コメントを残す